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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
頭で達する絶頂【完】
 求められることは、哮り狂う男性自身を、潤んだ秘所を目がけて突き立てること。単純にそれだけだ。ここまで、高まった女性の身体が、それ以外の何の刺激を求めるだろうか。

 すれ違った女性が発する好みの薫り、満員電車で不意に触れた女性の柔らかな肌の感触、一人でネットを彷徨う途中で見つけた美しい裸身、そして、苦悶の表情を晒す女性の顔・・・。
 
 不意に屹立してしまう自分自身をもてあました経験が、男性なら誰にでもあるだろう。今、何の制止も必要なく、思うがままに女性自身の体から与えられる快楽を、貪りつくすことを許されているのだ。

 これ以上、何の遠慮も必要ない。男性が、雄の欲求を解放するために必要な条件は全て整っていた。

 しかし、私の身体から、攻撃的な哮りが、なぜかすうっと引きはじめてしまっていることを、私は自覚していた。
 (どうしよう・・・、ここまで来て、後へ引けるわけが・・・、この間だって、何の問題も無かったじゃないか・・・)

 逡巡する意識に気づかれないよう右手で愛撫を続けながら、左手でみるみる硬度を失う自分自身を刺激しつづけた。なめらかな御主人様の肌に身体を重ねるだけで、いつもなら哮りが身体を駆けめぐるのに、今日はなぜか刺激は身体の一点には集中しない。

 何度か、御主人様との間にこういう感覚が生じてしまったことがある。その度、御主人様はそれをとがめはしなかったけれど、私はその度、このまま自分は不能になってしまうのではないかと虞を感じていた。

 まだ、初めての経験を済ませる前、初めて入ったホテルの休憩時間が過ぎていくのに気をとられ、初体験に失敗した日の焦りと、悩みの種は同じである。しかし、感じた感覚は全く違うものだ。

 今、私の目の前で私の行動を待っているのは、ろくに分かり合えていない碧い異性ではなく、私の全てを理解し、受けとめ、心と身体の両方で私を受け入れてくださった御主人様なのだ。

 ここまで自分の望む被虐の快楽を与えてもらい、ここまで御主人様の身体を自分で高ぶらせておいて、最後の仕事だけを躊躇している場合では無い。そう思えば思うほど、悩ましい感情が身体を駆けめぐった。

・・・、5分か、10分か、私は、そんな状況を打開しようと、気をそらし身体に快楽の感情を任せたり、あろうことか別の、普段自分が自慰するときに思い浮かべるような情景を思ったりした。

 状況は、変わらなかった。

 頭の中に、白いもやのような感覚が、拡がったまま、一点に集中できない。男性自身に集中して哮る衝動が、身体から抜け落ちた代わりに、浮遊感を伴った充足感が身体に溢れていた。それは、男性が、普通なら感じることのない種類の性的快楽なのだと思う。

 男性の快楽は、常に「満たされない」ことから発せられるものだ。何とか一度でもこの手で抱いてみたい、美しい女性の悶える姿を自分だけは見てみたい、自分自身で、喘ぐ姿が見てみたい、そんな衝動が、男性自身から沸き立って発せられることを、女性の側も求めているのだろう。

 しかし、その時私が味わっていたのは、どこまでも自分の身体を満たす暖かな霞のような快楽であり、どんなにその霞を晴らせて「いつもの」感覚を取り戻そうとしても、全く状況は変わりそうになかった。

 ついにあきらめて、熱い吐息のただ中の御主人様に、敗北の意思を、告げた。

 一瞬、正気を取り戻したように私を見つめる御主人様の目に、がっかりしたような陰りがなかったといえば、嘘になるだろう。けれど、帰ってきたのは、そんな私を赦す言葉だった。

 その後も、醒めない霞の中で、それでも何とか男性としての行為を全うしようと、逡巡したまま何度も試みてみるが、その日の私の身体はもう二度と、数十分前までの哮りを取り戻すことは無かった。

 それでも、精液を放出してしまいたい欲だけからは自由になれず、最後は自分自身の手で自慰してその日の快楽に終止符を打つことになった。

 役目を全うできなかった悔しさと、次回もこれを引きずってしまうのではないかという虞は、次に行為を遂げるまで、私の心に暗い影を落とし続けるだろう。けれど、その時の私の身体を満たしていたのは紛れもない快楽の充足感で、そのうえさらに身体にほんの少し残っていた射精欲も鎮めた私は、全ての力が抜けて、そのまま短い眠りに落ちていく。

 全ての感情を満足させたのは、射精が終わったからでは、決してなかったはずだ。

 私の頭を駆け抜けた絶頂感。それは、きっと「頭で感じる絶頂」そのものだったと思う。成熟しきった男性の身体が初めて知った、「普通の男性の快感とは別の快感」。

 私は、もうこの快楽から離れることはできないだろうと、確かに感じていた。

【このシリーズ 終わり】
 
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