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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
「女装M」×「男性S」【11】
 それから数年間、「彼女」の姿が頭の中から離れた日は無かった。

 きっとそれは、「彼女の何か」が、「その時の私」の琴線に触れていたからなのだろう。自由恋愛が許されない立場にありながら心を動かされた原因が何だったかを分析することは、今となっては難しいことだけれど、「男と女」には、そういう、一時だけの磁力がはたらくことがあるような気がする。

 そして、そういう一時だけの磁力は、時に甘美な麻薬のように心を蝕み、やがてその「一時」が過ぎてしまえば、記憶に留めておく価値すらない心の煤となってしまうのだろう。

 一年で一番大切な日、彼女を想ってカードを選んだ日の気持に、私がもう戻ることはなく、そして、「一時」のことを心の過ちのようにすら感じるのは、なぜなのだろうか。
 いずれにせよ、「その時」の私は、香水を身につけることを条件として提示され、まぎれもなく「彼女」の持つ薫りを自分の身体にまといたいと思っていた。

 「彼女」が香水をつけるのを好んでいたことは、時折二人で話しをするようになってすぐに聞いていたが、私は「彼女」から立ち上る香水の薫りが何という香水のものなのかを訊きたい心を意図的に抑えていた。

 女性同士ならまだしも、男性が女性に香水の名前を訊く、という状況はあまり考えにくいものだ。「彼」から提示された「条件」を早く整えたい気持と、早く彼女と同じ薫りをまといたいという気持にせき立てられながら、私はチャンスが来るのをじっと待ち続けていた。

 「その時」は割と早く訪れた。

 海外旅行に出かけた彼女とメールで近況を伝え合っていると、たまたま免税店で大好きな香水が入ったセットを買うことができたらしい。携帯の画面に、「happy」の文字が入ったそのメールを見た瞬間、私は探しつづけていた獲物を捕らえたかのように、急激に鼓動が早まるのを感じた。

 (やっと・・・、わかった・・・!)

 はまらないジグソーのピースが巧くそろったかのような爽快感を感じた私は、翌日、すぐにアメ横に向かった。ずっと以前、カジュアルウェアの店の隣にアダルトショップがあるビルに何度か通って以来、アメ横に化粧品を安く売る店が密集した場所があることは知っていた。

 その日も、辺りは客で一杯だった。

 香水が本来持つゴージャスなイメージや、女性だけしか入ることを許されないような明るい照明が、そこには無い。箱に入ったままところ狭しと置かれた香水からは、ある種の生活感すら感じられる。
 綺麗になりたい、魅力的な女でいたい、という気持を、「買う」という行為で満たすことは、そこでは難しいだろう。

 しかし、どこから見ても男性そのものである私が、無造作に香水を手に取るのに、これほど丁度いい場所はないように思えた。いちいち「贈り物ですか?」と笑顔で店員に確かめられることもなく、どのブランドの香水でも自由に試してみることもできる。

 もともと、「happy」を買おうとは思っていたが、女性ものの香水を選ぶ行為を、私は逆に、そのざわついた空間でなら、できる気がしていた。


 
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