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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
「女装M」×「男性S」【09】
 残る条件はあと2つだった。

 ・可能なかぎり全身の体毛を剃っておくこと

 ・腋の下、脚の指、首筋に、香水の薫りをまとっておくこと


 体毛の処理は、当日直前にしなければ意味がない。必然的に、次に用意しなければならないものは、香水だった。

 薫りをまとうために使うその液体は、女性が使うそれと、男性が使うそれとがはっきりと別れる道具の一つである。

 もちろん、ユニセックスを売り物にするブランドがあることは確かだけれど、女性だけが身につけるにふさわしい甘い薫り、そして、何時間か経過した後の持続香の奥に潜むその女性自身が持つ身体の薫りが、自分が持つ「男性」の性的欲求を昂ぶらせることを自覚していた。

 男性である私がどんなに望んでも自分の身体には得られない「ある種の薫り」。

 「彼」から「香水」を自分の身に使うことを提示された瞬間から、私は、女性しか使えない薫りを自分のものにする倒錯感に、心を高ぶらせていた。
 嗅覚が非常に敏感なせいか、私は強すぎる香水の香りに遭遇すると、息を止めてそこから離れたくなるほど嫌な気分になるのだけれど、実際は電車の中でも、オフィスの中でも、そうした人々に出会ってしまう回数が少なくない。

 周囲の人々に嫌悪感を抱かせて気がつかないそんな人々は、「適度」の範囲を自分自身で把握できない無神経さを周囲に証明しているのだろうし、逆にいえば、自分の身体が放つ本当の匂いを、周囲に悟られたくないと思う自信のなさを露呈しているのかもしれない。

 しかし、嗅覚が敏感なゆえに、私の性的欲求にその嗜好が直結するのもまた、事実である。

「ある種の薫り」。

 それは、言葉で形容することが難しいのだけれど、私ははっきりそれを自覚している。

 多くは、フローラルやグリーン系のいかにも「女らしさ」を感じさせる香り、そして、その奥にある身体自身が放つ薫り、その両方が合わさった時、私は、その薫りを放つ女性に対して性的な欲情を昂ぶらせてしまうことを止められないのだ。

 そんな薫りを持つ女性が、恋人や伴侶として、もっと言えば異性の友人としてふさわしい人でなかったとしても、私の「男性」はその女性を求めることを止められないのである。

 私は、丁度その頃、ある女性に心を奪われていた。

 同じビル内のオフィスで働いていた彼女と、たまたま通路ですれ違った時、私は彼女から「ある種の薫り」が放たれたことに気づいた。その場にさりげなく立ち止まり、軽くウェーブした長い髪を空気を含ませるようにふわりと揺らしながら立ち去る後ろ姿を見つめたのは、その時から暫く以前のことである。

 やがて、たまたま自販機コーナーで手持ちぶさたに休憩していた時、偶然「彼女」と二人きりになった。

 会議に向かう前、業務の進捗報告をすることになっていた私は、その内容が会議の参加者の多くに不快感を抱かせるに違いないことに気づいていた。入念に準備をした資料の全てが、彼らから自分の身を守るため、いわば「言い訳」に終始したものであることは自分自身で一番よくわかっていたし、数時間にわたりそのことを詰問されるであろうことは容易に予想できた。

 ほんの一瞬、一人になりたくて探した自販機コーナーに現れたのが「彼女」だったことが、その後数年の間「彼女」を心の中に留めつづけることになったきっかけだとすれば、それは何かの「必然」を宿した行為だったのだろうか。

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