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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
「映画館」・2回目【01】
 フィルターからはき出される湿気た空気をかき消すためか、安い香料があたりに漂っている。一度、深呼吸してからドアを開けると、外のホールに射す光を背に、私の姿が客席に陰を落とすだろう。


 古びたリノリウムの床に、そっと歩みを進めていく。ゆっくりと、階段を降りようとした瞬間、ミュールの底がカツン、と乾いた音を立てる。その瞬間、20人くらいの男性が、いきなり私を、振り返った。


 足早に暗がりに身を隠し、そのまま通路を降りていく。他の通路に立っていた男性が一気に移動し、私の近くに来ようとタイミングを計り始める。一人・・・二人・・・、5~6人が一度に行動を共にするのが見える。さすがに少し怖くなり、真ん中の方、あまりたくさん人が集まってこなさそうな場所に進んだ。


 私がうろうろすると、男性たちはそのまま私を追いかけて移動する。私を追って、この、瞬間が好き。


 周囲に人がいなかった座席の中心に私が腰を下ろすと、映画館の中は急にあわただしい雰囲気に包まれていった。腰を下ろすかおろさないかのうち、早くもスーツ姿の男性が、隣いい?と声をかけてくる。荷物をしまうことが先決なので、鍵を探しながら、


「もうちょっと待ってください」


 私が視線を合わさずにそうささやくと、男性はそのまま後ろの方に戻っていった。期待した反応では、無かったのかもしれない。


 やがて、暗がりに目が慣れると、男性が、5人、10人、20人・・・。だんだん、たくさん、見え始めた。一様に、私に、たくさんのどんよりと曇った視線が、絡まって身体を溶かしていくように感じる。いたたまれなくて、暗い床に目を落とし、シートの背に、身体を、沈めていく。背中の汗、まだ冷えてない。


 金曜日の夜だというのに「女性」が少ないせいか、男性たちの反応も今ひとつ。私の両隣に座った男性も、今ひとつ、乗り切れていないのか、私に対してそれほど執着してはいない。ほんの5分ほど、ぼんやりと映画を見ながら、両足を触られるのに任せ、もうたくさん、というように、持ってきた荷物を机の前の柵に括りつけると、一人で映写室の後ろの手すりにもたれかかりに、立ち上がった。


 手すりのあたりの人々は、すぐにお尻に手を伸ばしはじめた。生暖かい手は、私が汗ばんでいることを感じると、不思議といやがらず、最初はスカートの上からゆっくりと、そして、私の肩口に唇を寄せ、もうひとつの手でお腹のあたりをゆっくり、上下させていた。


 今日も、抵抗しない私を見た周りの男性はすぐに私に群がりはじめる。私の顔をじっと見つめる人が2、3人、身体のあちこちを触る人が3人くらい。囲まれても抵抗しないのがわかると、手はひとつひとつと増えていく。すぐに、もう5本くらいの腕が私の身体中を撫で回し、その中のひとつは私の腕をとって自分の熱いものに導いていく。こんな時、甘い吐息を漏らせば、男性達は喜ぶのだろうか。私は声も出せず、そのまま固まっていた。


 5分ほどそのまま触らせていただろうか。また、ストッキングを力任せに引っ張り下げようとする男性がいる。


(ひょっとして、同じ人・・・?)


 はっ、として後ろを振り向く。見覚えのない男性が、一瞬戸惑ったように私と視線を交差させた。すぐにうつむき、手のひらへの神経だけをとがらせ始める。


 乱暴なさわり方で人を特定するようになるなんて、私はどこか、おかしくなってしまったのだろうか。形ばかり、手のひらで抗ったが、何度も何度もショーツの中に男は手を差し入れ続けた。遠慮も何もなく、当然のようにお尻の蕾にまで指を伸ばし始める。


(エスカレートしたら困る・・・)


 背後に誰かの視線を感じる。手を止めるきっかけを失っている私に、常連らしき男性とワンピースの女が、なすがままになっている私に声をかけた。


「席の方で休まない?」


 また、ここで身体を任せることができないまま、私はその場を離れ、席に座る。2人は私を挟むように両隣に座り、ゆっくりと私の両足を撫でまわし、きれいだね、時々来るの?などと問い掛けた。


映画のラストシーンが、近づいていた。


「少しお話してもいい?」


 黒いビロードのワンピースの人からそういわれ、もちろん、と答えると、彼女は私に、顔を近づけてしげしげと眺めている。


「ここには、よくくるの?」


私は、「初めてです」と嘘をつく。時々しかこないので、まだ常連に顔はわからないはず。


「あのね、ここの常連さんがあなたの隣にいってもいいかな、って聞いてきたの。あなたはそういうの大丈夫なの?」


((もちろん))


 私は叫びたい気分だった。叶うなら、この映画館の真ん中で全身を客の男性全員から触られ、舐められ、そして甘くおねだりしながらフェラチオさせられたい・・・。でも、口に出すことは、できなかった。


「はい、大丈夫です」


なるべく冷静に答える。


「そう、じゃぁ、今から呼んでくるね」


その「女性」はすぐに客席の後ろに離れていき、代わりに、初老の男性が2人、私の両隣に座った。
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