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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
顔のない関係【09】
 自分に化粧をするために化粧道具を買ったことも、ストッキングをはくために体毛を剃ったことも、その時まではまだ経験したことがなかった。

 もともと、私はSM小説やビデオのM女性に感情移入していたから、もちろん自分が「女性」になることができるのなら、それが一番「欲望」への近道だったかもしれない。しかし、それは「そこまでやったら・・・」と躊躇する私なりの限界ラインを超えていたことだった。

 時折目にする女装系の雑誌に載っている写真に、めったに「女性として」綺麗だと言えるものはなかったと思う。

 自分ならこの人たちより綺麗になれる、と思うほど私は女性的な顔ではなかったし、男性としても髭の濃さに悩んでいたくらいだったから、最初から「綺麗」を望むのは無理は話だった。
 女性が初めて自分の顔に化粧を施すのは、何歳くらいの時なのだろうか。

 演劇好きでもない普通の男性が、一人で自分に初めて化粧をする。何から手にとっていいか分からず複雑な想いを抱えながら、洗面台の前に一人、裸で立ち、まるでそこに一つの境界線があるかのように、しばらく私は自分の手を見ていた。

 ここで止めればいいのかもしれない、そんな気持ちは確かにあった。けれど、私の手はタグが付いたままのブラジャーを手にとった瞬間、興奮で早くなる鼓動に抗うことはできなかった。

 はさみでタグを切った後、後ろ手にホックを留め、胸元にあげてみる。あらかじめ自分のサイズを測ってはいたが、女性用としてはありえない大きさだったので、手にしたものは私の身体には大分小さめだった。カップの下側のワイヤーにきつく胸元を締め付けられ、私の鼓動はさらに高鳴る。

 ぎゅっ、と後頭部を引き絞られるような興奮が、全身に広がる。

 ふわりとしたビロードのような感触のキャミソールをその上から着ると、滑るような布地の感触が肌を撫でていくと、じん、と何かが肌に染みこむような感覚を感じた。

 高まった興奮は、もはや少々のタブーでとどめられる限界を超え、私はファンデーションの容器の蓋を開けてスポンジにファンデーションを取ると、いきなり頬から顔に塗りつけていった。あっという間に顔全体は白くのっぺりとした表情に変わっていた。

 髪の毛を覆うネットをかぶったあと、ロングのウエーブのかかったウイッグをかぶると、鏡に映る自分は、まるで別人のように見えた。
 後で考えれば赤すぎる口紅も、ブラウンにメッシュが入ったような派手すぎるウイッグには不思議と合っていたのかもしれない。自分で思っていたよりもずっと、「見られる」顔がそこにあった。

 PCの電源を入れ、Netmeetingを立ち上げ、女性の名前でログインし、自分の顔の画像を映してみる。10万画素そこそこしかないWebcamを通した映像は、鏡で直接みるよりずっと女性らしく見えた。

 (これならいけるかも・・・)

 ツーショットダイヤルで女性の声真似をしたことはあったが、自分の顔や下着、洋服まで女性を装ったことはなかったから、そのとき、私は新しい種類の刺激を感じて興奮していた。

 当時はまだ、匿名で無料のメールアドレスを持つのが難しい頃だった。決まった相手と話したければNetmeetingにログインしたままひたすらコールを待つしかなく、私は、「恵子」さんがコールをかけてくれることを、そのまま、何時間も待ち続けた。
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