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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
映画館・4回目【01】
時々、「男性」のまま、映画館に出かけた。


「女」としてそこに入るために必要な準備ができないとき、周囲の雰囲気をもう少し冷静に確かめてみたいとき、私は、何度か会社帰りにそこに向かった。


「男」でいれば、周囲の視線は全く気にならなかった。私も、他の男達を見回すようなことはしない。


「集団の中の無関心」


敢えて主張をしなければ、集団の中に簡単に呑み込まれ、埋没できる。男というのはそういう生き物だと思う。暗い客席にはそうした男達が溢れていた。ただ、昂ぶる性衝動を、倒錯した「女」に向けていることを除けば、誰一人として、人目を引く男性など、そこにはいない。


ぼんやりした暗がりに目が慣れてくると、今日も数名の「女」が、群がる男達から狙われているのが見える。曖昧な態度で映画を見ている「女」の両隣に男性が座り、それぞれの「女」側の手をじわじわと身体に這わせ始めているように見えた。


(これから、なんだ・・・、うまく趣味があえばいいんだけど・・・)


強引で自分勝手すぎる男性も、演技の拒絶と本気の拒絶との差が分からない押しの弱い男性も、「私たち」を満たしてはくれない。


「女性」に相手にされないような男性は、ここの「女」にも相手にされはしない。


「性」は違っても、私たちは「女」だから。


そのことを理解できていない男性も、ひょっとしたら多いのかもしれない。今は、自分がその「男性」なのに、一度「女」になった私は、なぜか前よりはっきりと「女が求める男性像」が見えたような気がしていた。


客席の一番後ろの通路に視線を移す。通路の前に、塗料のはげかけた手すりが、鈍く光っている。


(このあいだ、私、あそこで、触られていたんだ・・・)


立場をかえてその場所を眺める。腕組みして、ぼんやりと映画を眺める男性、煙草をくゆらせる男性。あんなところに裸同然の「女」が足を踏み入れて、無事で済んでいたのが不思議だった。


また、視線を前方に移す。セーラー服を着た二人が、仲良さそうに手を握り合って座っていた。他に見るべき人もいないので、私は二人の後ろの席にでも座ろうと、通路の階段を下りる。


ちょうど後ろの席に座ろうとした時、片方が立ち上がり、別の常連らしき男性と連れだって外に出て行った。隣の席の男性は、狙っていた「女」に逃げられてしまった無念さが背中を覆っていた。猫背気味に、席から立ち上がると、そのまま外に出て行くようだ。


私はすかさず席を立って、セミロングの髪をブラシで解かしながら一人佇んでいる「女」の隣へ、移動する。


「ここ・・・いい?」


拒絶されないことは分かっていて、小声で確認する。コクン・・・と首を縦にふるのを確認してから、席に座った。


ふんわりと、高校生が使うような制汗剤の単調な香りが、辺りに漂っていた。





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