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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
映画館・5回目【02】
 少しカーブしながら続く階段を降りると、切符売場が見えた。その向かい側が入口になっているようだったが、既に競馬場にいるようなジャンパー姿の男性とくたびれたスーツ姿の男性とが混在しながら、満員電車に乗り込もうとする人々のように入口の前を塞いでいる。
 「2階」と違い、騒がしい雰囲気だったが、私のミュールの音は辺りに響く。その音が「女」の発する音であることを、男なら誰もが認識しているし、だからこそ、「2階」で階段状の客席の通路を歩く私には、期待と値踏みをするような視線が一斉に注がれる。いつもと同じようにヒールの音を響かせながら階段を降りてくる女装姿の私。「いつも」と何も変わらないはずなのに、男性達の反応は、いつもと同じではなかった。

 こちらを射抜き、刺す様な視線が、ちらほらとだけ、私に注がれた。


 男性からの視線をまともに受けることは、視線の持ち主の行為を受け入れるサインになる。私は、いつもどおり、視線を合わせることを避け、自分の数歩前の床に視線を落とす。視界から男性たちの姿が消え、じりじりと集団への距離が迫ってくると、自分の身体に今にも手がのびてくるような強い欲望が放射してくるのを感じた。


 集団に背を向け、切符売り場の男性に1000円札を渡す。


 男性ばかりの空間の中に現れた「女」の私。普通なら少しは何か、変わった反応があるように思っていたが、取り立てて何の反応もなく、機械のように無言で半券を渡された。私は、半券をスカートのポケットに入れると、男性達をかき分け、客席に入った。


 「2階」と違い、映写室の中は少しカーブしていて、席には人がびっしりと座っている。前方の座席には中年男性が、明らかにスクリーンを見ずに競馬新聞に視線を落としている。暇つぶしと、男性同士で身体を寄せ合っている人たちが、半々のように見えた。座る場所が見つからない私は、人の隙間を探しながら壁伝いに後方の座席に空きがないか探した。


 入口の扉を数歩離れると、もう隣にいた男性が、私の身体に手を伸ばす。
あまりの無遠慮さに、軽く手を払い、「拒絶の意思」を伝えようとする。「2階」なら何度かそうすれば自然に手を伸ばしてくる男性は一時いなくなるものだった。しかし、ここではしつこさが全く違い、誰一人として悪戯を止める者はいなかった。むしろ、抵抗することで更に手の数が増え、私はしかたなく少しでも隙間のある方向に身体を捩りつづけた。
 数歩ずつ、隙間に身体をはめ込んでいくうちに、気がつくと私は客席の最後列まで押し流されていた。


・・・・・・。
 それからのことは、今考えてもショックが大きくて、時間の経過を思い出すことができない。記憶を取り出すことを身体が拒否しているのかもしれない。今でも、思い出せるのは断片的な光景だけだった。


 いきなり、大きく、ゴツゴツとした掌で私の左手首を掴まれ、強く引っ張られる。身体を一気に引きよせようとする力に抵抗しようと、右の手で、手首に張り付くする男の指に手を掛ける。


(硬い・・・、どうして、こんなに力があるの・・・。)


 自分も同じ「男性」ではあっても、特段のトレーニングをしているわけではない私は、肉体労働者らしい硬い掌の握力に、全く敵わない。抵抗に一瞬の隙があったせいで、体重が右足に偏っていた不安定な体勢のまま、今度は別の男の手に右手首を掴まれた。
 一気に右手を強く引かれ、足下のバランスが崩れる。両手首を掴まれ、綱引きのような格好にされた私は、とっさに両脚で床を強く踏みしめ、それ以上体勢を崩されないように踏ん張ろうとした。


「イ、イテエッ!!」


 床を覆っている男性達の足を避ける余裕は、その時の私には無かった。床だと思って踏みしめたのは、サンダル姿の男性の爪先だった。


「あっ・・・、ご、ごめんなさい・・・」


 私は自分の姿も忘れ、一気に素に戻り、とっさに足の力を抜き、柔らかい感触を踏み抜いてしまった右足を直ぐに浮かせる。


「ごめんじゃねぇんだよ、テメェ・・・、そんな格好しやがって、舐めてんのか?」


「ごめんなさい・・・、ちょ、ちょっと・・・急に引っ張られたものだから・・・」


 両腕を左右に開かれ、十字架に磔にされたような格好で、私は必死に詫びる。


「踏まれたのはアンタだけじゃねえんだよ、オレも、さっき、そこで踏まれて・・・」


(言いがかりよ・・・、どうして・・・)


 どう考えても、別の男性の足を踏んだとは思えなかった。それは私じゃない、と言いかけ、自分の状況を思い直した。


 (こんな状態で、反論したら・・・、刺激してしまうかもしれない・・・)


「ごめんなさ・・・ウッ!!」」


 哀願の言葉を口に出そうとした瞬間、正面の男性に、右の頬を打たれた。


「テメェ・・・、何やってんだよ」


 頬を打たれたことなど、子供の頃以来、もう10年以上一度も無かった。私はその行為に怒りを覚えるより、萎縮して恐怖心に急速に身体を染められていく。


「おまえらみたいなのは・・・、おとなしく「上」に集まってりゃいいんだ。チャラチャラこっちまで入って来やがって・・・」


 私には、男が何に対して怒っているのか、量りかねていた。


「ごめんなさい・・・、申し訳ありません・・・、わ、わざとじゃないんです・・・」


「わざとじゃねえ、って、じゃぁ、お前のその格好はなんなんだよ?何しにきたのか、言ってみろよ?え?入る場所間違えましたじゃ、納得できねぇけど」


 (この人・・・、足を踏まれて怒っているんじゃ、ない・・・)


 私は、男達の「怒り」と敵意が、自分に対して急速に集まるのを、絶望的な想いで受け止め始めていた。
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テーマ:女装 - ジャンル:アダルト

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