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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
「仮面舞踏会」【06】
 「専属奴隷」という誇らしい名前を生まれて初めて手に入れた日から数ヶ月後、私は、その名前の意味を失った。

 お互いの嗜好の不一致、もしくは、むしろ私の不始末がその結果を導いたのであれば、私はその後、これほど長く放浪しなかったのかもしれない。
 あるいは、「プロの調教技術」を持つ彼女の専属奴隷として、一度でもその技術の前に自分の身体を晒すことができたなら、私が何を求め、どうしてMの性癖を持つのか、果たして自分は本当にMと言えるのかを、知ることができたのかもしれない。

 あまりにも時間は短すぎ、そして、チャンスは私の手のひらからこぼれ落ちていった。

 しばらくして私の元に届いたぬいぐるみだけが、彼女に抱かれた残り香を宿し、「専属奴隷」の称号が嘘でなかった証拠として今も私の部屋の書棚の上から私を見下ろしている。
 「主」のいなくなった後、その名前を冠した奴隷は、どう振る舞うべきだっただろうか。

 もちろん「仮面舞踏会」の参加者達にも、本当の詳細は明かされなかったけれど、一月もしないうちに、私達の間に何かが起きたことを周囲の人々は察していったし、私もそのことを否定しなかった。

 あるいは、主宰に願い、元の名前に戻してもらうこともできたかもしれない。そのことを、誰もとがめなかっただろう。しかし、私は、「仮面舞踏会」で最初に身につけた仮面を、剥がすことができなかった。

 さらに数ヶ月が過ぎ、時折、どうしてもMとしての一歩が踏み出せない自分に悶々として耐えられなくなった。

 「かりそめにでも主として自分を調教して欲しい、専属になることなど求めない代わりに、ただ、好きなように自分の身体に鞭打って欲しい」

 と、なりふり構わず「黄色い文字を使う」女性の一人に頼み込んだこともあった。

 彼女がスパンキングが好きで、そして、その相手を探していることは、普段の会話で分かっていた。彼女に都合のいい、彼女に迷惑を掛けないサンドバッグになれれば、それで気がすむような気がしていた。

 そんな願いが完全に筋違いであることすら、その時の私には分からなかった。

 彼女は全ての事情を知っていたから、私を不憫に思ってはくれたけれど、その申し出を受け入れてはくれなかった。落胆と、どこか安堵したような気持ちが交錯し、次第に私は「仮面舞踏会」から足が遠のいていった。

 それからしばらく、黄色い花の周りに紫色の花が寄り添うように、数名の人々が舞踏会を彩り、そしてまた、少しづつその色を変えながら時間が過ぎていった。

 何度か、間を開けて時折覗いた舞踏会が突然無くなっていた日の驚きは、今も忘れることができない。

 そのことを知っていたなら、せめて参加者に、一言挨拶をしておきたかったと思う。今、彼女と彼らがどこでどんな生活をしているのか、10年の時を経て、一晩だけでも集って聞いてみたい。

 叶わないことと分かっているから、そう思う。
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コメント
この記事へのコメント
ネット
 ネットのつながりって切れたらそれっきり・・・。
だからこそ何でもあかせるし
リアルでは話せないことも打ち明けられるけど・・・。
こんな展開、辛いです。
2006/07/01 (土) 17:37:43 | URL | さやか #DS51.JUo[ 編集]
ネットだから、こそのかたち
この後も、私は次々にネットでしかあり得ないようなことに巡り会ってきました。
やっといろんなことを整理して見られるようになった今だから、軌跡を展開していくことができるような気がしています。
2006/07/02 (日) 01:03:53 | URL | cockshut #-[ 編集]
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