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Visions of Masochist
自分を律し、行き先を指し示す【Vision】。 しかし、行き先の分からない「背徳の幻想」が、私の中には存在する。
妄想を展開する【16】
 それから、どうやって自分の部屋に帰ったのか、よく覚えていない。気がついた時には、ベッドの上にいた。嫌な夢にうなされていたように、全身が汗にまみれている。

 軽い脱水症状なのか、動悸が激しくて、息が苦しい。ベッドで体を起こすと、鈍痛が頭に拡がった。たまらずふらふらと立ち上がり、キッチンに両手をつき、流し台の水栓をひねるとそのまま蛇口から水を流し込む。

 全身が、乾いていた。

「ふうっ・・・、」

 胃の中を冷たい水で満たしと動悸が少しだけ和らぎ、やっと少し落ち着くことができた。

【償いはきちんとしていただきますから・・・】

 知加子の言葉が、頭の中で黒い渦を巻くようにこだましている。

 (償い、って・・・、どうするつもりなんだ・・・)

 監禁、暴行、最近ではテレビでよく見る光景だった。しかも、同じ会社、同じ部署の同僚を会社内で狙うなど、野次馬達には格好の材料が揃っていた。

 (しかし・・・、そんなことをしたら知加子だってただでは・・・)

 興味本位の下卑た本性を、正義の表情をした仮面で覆ったレポーターやコメンテーターが、「独身30代会社員の病んだ性癖」をおどろおどろしい演出で扱うシーンが頭をよぎった。

 日々繰り返される、刺激だけを求める人々の眼前に自分が放り込まれる嫌悪感が、全身に拡がる。

(いやだ・・・!そんなの絶対に嫌だ・・・)

 セクハラ防止室に駆け込むこと、警察に訴え出ること、噂を社内にばらまき、噂好きなお局OL達の雑談の話題にしてしまうこと、他には・・・。

 知加子には無数の選択肢があり、そのどれもが自分を被害者、私を加害者として証明することで、私を社会的に抹殺するに十分な威力を持っていた。

 知加子は今や私の生殺与奪を握った、と言えるだろう。

 つい数時間前まで、知加子の全てを握っていた私は、今や完全に形勢を逆転され、どうすることもできない。

 全身から汗がさらに吹き出るのを感じた。あっという間に、手先や足先から血の気が引き、代わって背中や胸元には新たな汗が皮膚を光らせている。

 時計は、2時過ぎを指していた。

 あと数時間でまた会社に出勤しなければならない。知加子の机は私の真正面だから、目を合わさずに過ごせるとは思えない。やがてその不自然さは周囲の同僚に伝わっていくはずだ。

 今まで曲がりなりにも同僚として何の不満もぶつけ合わずに過ごしていた私達が、突然全く会話を交わさない、などということが目立たないわけがなかった。

 もう一度、ベッドに寝ころび、天井を見上げながら、数時間後のことを夢想した。

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